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「高橋大輔」を好きなだけ語るブログ

高橋大輔 沼への道 step11 The Crisis

2011-12年エキシビション
ザ・クライシス(映画「海の上のピアニスト」より)

「回遊」とか「遊泳」とか、そんな言葉が思い浮かんで、ノクターンの時をちょっと思い出す。

あの時の純粋さはそのまんま、でももっと洗練されて優雅になった。
いい青年になったなァ、なんて急に感慨に耽る。

夜の風景

夜の波間を穏やかに漂い泳ぐようなイメージ。

ピアノの優しい音色で繰り返される同じ旋律が、寄せて返す波のようにひたすら美しく繰り返される。
穏やかな美しさに、少しだけ挿し込まれる不協和音。
凪の海の持つ温かい包容力と、静かに揺れる波の不安定さ。

急激に感情が昂るような大きなドラマはない。でも見飽きない。吸込まれる。
月に照らされた夜の海をただボーッと座って眺めている風景のような。
永遠に見てたい。

クライシスも人じゃない気がする。風…?

見た目はちゃんと人に見えて、昭和の初めの文豪の小説に出てきそうな、知的で優しくて繊細な学生さんみたいな。(それは多分、衣装のイメージからきている妄想だ)(でもこれでマンボをやると途端に宴会場のサラリーマンになるんだ)
というか、順当に考えると映画「海の上のピアニスト」の主人公の衣装なのかも知れないけど。でも演じているのはそのピアニストと言うより、やっぱり曲全体の雰囲気なのかな。

一人だけ異質で居る事に慣れている、というかそれしか知らない、孤独と自由を愛する人間がずっと抱え続けている人恋しさ、みたいな。
大好きなあの映画の空気を感じる。

そして、時々風になる。
風、とか、水とか、寂しさ、とか。
でもやっぱり、音楽、か。

ってゆうか、よく考えたら高橋くんってプログラム中は、基本的に人間じゃなくないですか?今気づいたけど。 
明確な意図でキャラクターというか人間を演じるつもりがない限り、割と人類から離れていきがちな気がする。

本当に自我をすっぱり捨てられるんだなあ。高橋くんがどこにも残ってない。なのに、高橋大輔じゃなければ作れない世界を作り出す。
どうなってるんだろう、この人。分からん〜〜〜。
でも、そこがすごくすごく好きだ〜。

スピード

会場に行って見られたらもっと気持ちいいんだろうなと思う。会場で俯瞰で見てみたいな。このプログラムは特にそう思う。
泳いでるとか漂ってるようなユラ〜っとした雰囲気なんだけど、何だか風圧が見えそうな程のものすごいスピード感。あの気持ち良さそうな感じは遠くから見た方がきっと良く分かるんじゃないか。

水族館でウミガメの遊泳を見た時も驚いたけど、ゆったり泳いでるように見えてモノッ凄いスピードなんですよね。
無駄な動きとか余分な力を一切使っていないから、動きそのものはゆったりしてるのに、実際はとんでもない高速移動なんだ。目が追いつかないくらい。

クライシスの高橋くんはあれだナ。いや、見た目は全然カメじゃないけど。
あの、動きの悠然さとスピードの速さのギャップに驚くって意味では。

スケートで滑ってるのかどうかさえよく分からなくなる。だって摩擦をまるで感じない。
ただ腕をふわっと広げただけで、静かにあっという間に違う場所に行ってしまってる感じ。何かやわらかいものがすーっと飛んできたっていうか…。
やっぱり人間離れして見えるなぁ。

動きの一つ一つがただただ気持ちよくて、ただほわ〜〜〜っと見蕩れてああ良いなあ心地好いなあとしか思えなくなる。

ジャンプさえ緊張を感じない。気づいたらふっと浮いてふっと降りてくる。静かな水面に雫が跳ねて波紋が広がっていくような穏やかさ。不思議なジャンプ。

で、ものすごく気持ち良いんだけど、何故か胸がぎゅうっと締めつけられる。懐かしいような温かさがあって、でもすごく独りってゆうか。なんだろう。

ぼーっと浸ってるうちに…あっという間に終わってしまう。
こんな…ここまで変化の少ない曲でよくぞこんな…。

良くこの曲を選んだな。ってゆうか、この曲で高橋大輔選手が滑ったら綺麗だろうなって思いつく宮本賢二さんって、やっぱりすっごいワ。

落差

で、クライシスってアンコール付きでマンボメドレーとセットになる事が多かったけど、この極端な差がまた…!

その氷、さっきのと違うよね?そんな氷じゃなかったよね?!

ちゃんと正確に書こうとするなら、なんか摩擦の係数とか力のベクトルとかが違う。(全然正確じゃない)
私に分かりやすく書くなら、スケート靴の氷への態度がまったくもって違う。全然違う!そして氷の方も違う!!!

空間が変わるにも程がある。
同じ時空の人間がやってるとは思えないんですが、でもおんなじ顔してるし同じ時間の同一人物なんでしょうね…。
どこに四次元スイッチついてるのか、高橋大輔さん、ホント謎だらけです。

初見の2011年カーニバルオンアイスも、全日本のも、2012年ニースワールドのも好き。あ、国別も!

クライシスとマンボの落差もスゴイけど、このシーズン、ショート・フリー・エキシビション、超豪華3点セットでそれぞれの個性が全部違う
どれもこれもそれぞれに、なんじゃこりゃ〜!ってくらい突き抜けてて、その度に更に落とされるんだから、もう!幸せ過ぎる!

こうしてどこまでも落ち続ける高橋大輔沼への道。
いやでも、この沼まだまだこんなもんじゃないんだった。この辺の自分なんて浅瀬だ。水際だ。
当時はズボッてなってあれ?いきなり底なし?って思ったけど、実はまだまだまだ続くこの階段。
そんな訳でこの後も「沼への道」が続きます〜。

皆さんが落ちた「高橋大輔」さんはなんですか?

余談

トリノオリンピックの後〜大怪我をする前の、破竹の勢いで世界ランキング1位まで駆け上がった頃の高橋大輔選手。
その後3年くらい破られなかった当時の世界歴代最高得点を取ったりもしていたけど、当時の国際ジャッジや関係者達からの高橋くんへの評価は、どちらかと言えばステップの技巧やジャンパーとしての技術面を評価されていた印象がある。
実際は表現者としても既に素晴らしかったと思うけど。

膝の大怪我の後、バンクーバーオリンピックで復活した頃から表現面がとても高く評価されるようになった。
アジア人男子としては国際的には初めての評価だったと思う。
フィギュアスケート界の価値観を変えたと言っても良い。

高橋大輔のスケートに憧れてその表現を目指すスケーター達が、日本だけじゃなく世界中のあちこちで現れるようになったのは、この頃からじゃないかな。

そしてこのシーズン(2011-2012年)のVasブルース、(クライシス+マンボ)で、完全に表現者として、と言うかアーティストとしての評価を確立したと思う。

オリンピックから2年後、オリンピックまでまだ2年あるという位置で、スケートファン以外にはあまり注目されないシーズンだっただろうけど、世界のスケート関係者達の高橋くんの表現への絶賛ぶりは、めちゃめちゃ熱かった。
その後の高橋くんに期待するものが、より深くなっていった気がする。

確かこのシーズンの開始前に2008年の大怪我時の手術で右膝に入っていたボルトの除去手術を受けている。
そこからまたリハビリを経て、ジャンプが練習出来ない時期はフランスでスケートの基礎をもう一度学び直したり、バレエも習ったりしていたとネットのニュースで読んだ。
姿勢とか身のこなしがこのシーズンからグンと芯が通って端正になった気がしたのは、その成果が出ていたんだろうな。

そして多分、自在に動かせる身体のお陰で、表現をより深く突き詰めていった。
スポーツとしての枠からは、もうはみ出していたよね。

こんな面白い存在をリアルタイムで追いかける事が出来るとは…!
私、前世で何の徳も積んだ覚えないですけど、なんかありがとうございます!現世でも何とか(覚えてる時は)精進します!