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好きなプログラムを好きなだけ語る場所

高橋大輔 沼への道 step6 道

09-10年 フリープログラム
「道」ニノ・ロータ

〜また違う新しい魅力!大好きなプログラムが積もっていく〜

ファイギュアスケートを観て人生について考えるなんて、これが初めての経験だった。
深く優しく心に沁み込んでくる、高橋大輔の「道」は自分にとってそんなプログラム。

特に好きなのは、バンクーバーオリンピックの時と、その1ヶ月後の世界フィギュアスケート選手権

大きな試合には、特にオリンピックには独特の緊張感がある。一観客の自分としては、それは醍醐味の一つでもある。ただ見てるだけの自分でも、失敗をするまいとする選手の緊張感に感染するし、その真剣さに心を動かされたりもする。

でもオリンピックでも世界選手権でも高橋選手の「道」の演技中にそうゆう緊迫感を感じなかった。それよりとにかく夢中で楽しんでしまった。

演技を楽しむ

始まるまでの緊張感はあったけど、始まってしまってからはもう全身で滑る事を楽しんでいるように見えた。

最初の4回転を派手に転倒して客席がどよめいた後、すぐ立ち上がってフワっと微笑む。あれで、自分は緊張が解けた。よしっ大丈夫!って。私が思ったってしょうがないんだけど。

そこからは本当にずっと気持ち良さそうに見えて、観てる自分はジャンプの成否への緊張より、演技の楽しさへの気持ちよさが勝ってすごく楽しかった。
当時の実況:西岡アナウンサーが、後半のトリプルアクセルに「降りてくれ!」と祈りを捧げたのに気づかなかったくらい、すっかり世界観に入り込んでた。

それぞれのキャラクターの雰囲気

ショートプログラムの時の「eye」では、大人の男らしい色気を見せていたのが、このフリーの「道」では、少し幼く見える部分があってどことなく可愛さとか愛嬌がある。
多分衣装が柔らかく見える素材でフワッとしていたのもあるけど、とにかく醸し出す雰囲気がフワっとしてる。eyeとは完全に別人!映画の主人公の一人、ジェルソミーナの雰囲気がちょっと乗り移ってるんじゃないかなってくらい。

「道」という映画はもともと大好きな映画なんだけど、ザンパノという男性の野暮ったくて頑固な男臭さや、ジェルソミーナという少女のような純粋さを持つ一途で可愛らしい女性の雰囲気や、綱渡り芸人の献身的で優しくて陽気な感じ、その全部を高橋くんの動きに感じるのがとても面白い。映画の中に流れる雰囲気の全てが高橋大輔のスケートから見えて来る。

パスカーレ・カメレンゴ氏の振付がまた秀逸!
出だしの何かにつまづいて転びそうになって頭を掻くような降りとか、サーカスの技の動きなどあちこちにパントマイムが入るんだけど、それがめちゃめちゃ上手いし楽しい。
綱渡りの場面では綱が見えるし、ジャグリングでは宙を舞うクラブが見える。サーカスを楽しむ村人のような気持ちになって浮き浮き楽しくなってくる。弾むようなワクワク感でいっぱい。明るくて楽しい愛すべきピエロに夢中になる。

表現の余白

ラストの渾身のストレートラインステップ。全身全霊で動く姿に気づけば泣きそうになってた。
まるで人生の全てを、人間の喜怒哀楽の全部を吠えるようにぶつけているような、何とも言えない感情の昂りに巻き込まれる。

トランペットの音色が切なくて、泣ける程美しい。高橋くんが放出するエネルギーがその音楽の美しさを増幅させる。
人生の辛さや苦しさを音楽の美しさで抱きしめて包み込んでいるような、辛苦も悲哀も含めてどこまでも人間を肯定しているような人間讃歌にも思える。ひたむきな愛のような包容力。

これは映画を観ての感想じゃない、音楽単独でもこんな気持ちにはならない、高橋大輔のスケートを観ての感想だ。なんでこんな感想になるの…。

これで演じた本人は、実は映画を観た事ないって聞いて本当に驚いた。役作りをせず、ただ曲に身を任せて曲に表現を委ねている、のかな。
振付の時にあらすじは聞いてるかも知れないけど、音楽に浸るだけでここまで細やかに雰囲気に同化してしまえるとは!すごい感受性だ。

もしかすると、映画という細部を観る事なく音だけを頼りに演じた事が、かえって受け取る側に色んなものを感じさせるのかも知れない。
細部がはっきり作り込まれない事で余白が出来て、こっちの空想(というか妄想)が描ける分、自分にとっての「道」が再現されたように見えてくる。

本当に映画を一本観たような感覚だった。見終わってしばらく人生ってやつに思いを馳せずにはいられないような、色んな感情が押し寄せてくるような、多分これがカタルシスってやつだ😭 スゴ過ぎる!

イタリア・トリノ会場の世界フィギュアスケート選手権

オリンピック後の世界選手権では、なんと4回転フリップに挑戦!
当時まだ誰も成功させていなかった、4回転の中でも高難度のジャンプ。

残念ながら回転不足でダウングレード+両足着氷になったから成功ではないけど、日本男子初の世界チャンピオンを狙う局面でこの挑戦とは。(それから6年後の2016年4月に宇野昌磨選手が公式試合での初成功)

ショートプログラムは1位でリードしていたから金メダルを狙うなら確実な3回転で十分だった場面での4回転。しかも難しいフリップジャンプという斜め上を行く挑戦。
解説の本田武史さんが冷静に「4回転フリップ…」とコールしかけた言葉に被せるように、実況の西岡さんが「フリップだー!!!」と叫んだのも懐かしくて微笑ましい思い出。
試合後、同じように4回転にこだわり続けるブライアン・ジュベール選手が、高橋くんに満面の笑みで握手を求めに来たのも印象的だった。

高橋くん本人は、若干オリンピック後の燃え尽き感があったらしいけど、このフリープログラムでは、良い方向に力が抜けたリラックスした演技に見えた。
そのリラックス感が、プログラムのキャラクターの存在感をより強く見せていた気がする。

そして多分、高橋選手自身が、大怪我の後の苦しいリハビリや、回復が間に合うか分からない辛さをくぐり抜けてきたからこそ、「道」の中にある人生観をあんなに深く見せられたのかな、と思う。

「道」が高橋大輔なのか、高橋大輔が「道」なのか。

大怪我の後、こんなに逞しく深みの増した演技で帰って来てくれて、本当に本当にありがとうございました!!!感服です!!!

 

バンクーバーオリンピック「道」

Vancouver 2010 FS Winter Olympics - YouTube

トリノ世界フィギュア「道」

2010 Worlds FS Daisuke Takahashi - YouTube

 

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