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好きなプログラムを好きなだけ語る場所

川口悠子/アレクサンドル・スミルノフ「いつも何度でも」

2011年世界フィギュア エキシビションから
ペア 川口/スミルノフ

前回、自分にとって大切なモスクワワールドの高橋選手を振返って感想を書いていたのだけど、モスクワのワールドと言えば、他にも忘れられない演技がある。

エキシビションで見た、ペアの川口悠子選手とアレクサンドル・スミルノフ選手のプログラムがその一つ。曲は映画「千と千尋の神隠し」の主題歌「いつも何度でも」。

シンプルなピアノの伴奏と澄んだ女性の歌声。フィギュアスケートの選曲になり得るとは思ってもみなかったこれが、空気のように軽やかな悠子さんの佇まいとマッチしてしみじみと良い。

何だろう。悲しいとかスゴイとか、そうゆう激しい感情に巻き込まれるような感動じゃなくて、ただただ自然といつの間にか涙が零れてしまう。漫画みたいに涙がツーってあふれてくるの、ビックリした。

川口選手が見せる表情がすごく印象的で、あれは何て言えば良いのか、すごく無垢な感じがした。無垢な幼子が戯れているような感じ。邪気のない小さな女の子が優しいお兄さんにじゃれついて遊んでるような…、と言っても、やってる事はとんでもないポジションのリフトだったりするんだけど。

最初の方のリフトで悠子さんが足を真っ直ぐ真上に上げる形があって、それをスミルノフさんが軽々と持ち上げたまま片足でスーッと滑るところ、それが何故か鎮魂の祈りのように見えて…。あれでまず涙がツーッと。
今になって動画を探し見返したら折り鶴みたいだというコメントを見つけて、なるほどそれかも…!って腑に落ちた気がした。

リフトやスロージャンプなど技術的にはかなりアクロバットなものなのに、本当にひたすら優しくひたすら無垢に続いて行く演技。そこに童謡のようなノスタルジックな日本語の歌声が重なって、何だか訳も分からずいつの間にかボロボロ泣いてしまった。

多分、あの演技で感じた気持ちで一番近い言葉は、「癒し」だったのかなと思う。
直接の被災者でもないのに、やっぱり自分も傷ついていたのかな。自身でも気づいていないような傷に、じんわり沁み入るように入ってくる、そんな演技だった。

悲しみを表現するでもなく、頑張ろうとか元気出そうって励ますのでもない、ただものすごく純粋な無垢さを見せてもらって、世界はやっぱり美しいなって思えるような、そんな癒し。二人のつくる世界が、優しさと純粋さだけで出来ている桃源郷のようにも見えた。一瞬の幻想。

川口さんの事もスミルノフさんの事もよくは知らないけど、きっと彼らもすごく傷ついたり苦しんだりした経験があるんだな。励ましではなく癒しこそが必要な時がある事を、経験で知っている人達なんじゃないかなって思う。

自分は音楽を聞く時に、まず音だけに集中してしまって歌詞をまったく理解してない事が多い。この曲も映画を観た時もこのプログラムを観た時も、歌詞は全然頭に入ってなかったんだけど、今はじめて気になって調べてみたら、歌詞もなんか…すごくすごく人の心の傷に寄り添うような歌なんですね…。

震災の後の世界フィギュア。その為にきっとわざわざこの曲を選んでプログラムを作ってくれたのかな。川口さん、スミルノフさん、本当にありがとうございました。あの数分間でどれだけ癒されたか分からない。

フィギュアスケートって、表現の力って、やっぱり途轍もないものがある。

 

2011世界フィギュアスケート選手権エキシビションの演技

Patinaje artístico. Mundial 2011. Gala (11/31) Kavaguti/Smirnov - YouTube